先日歯が折れた。
北アルプスの花崗岩と戦って負けた。
もともと傷めていた歯で、神経を抜いていたから痛みはそれほど無かった。
先を急ぐあまりに、自分の疲労を無視して進んだ結果、濡れた岩に足を滑らせ、丸く盛り上がる岩に顔面から突っ込んだ。
たまたま歯だけが当たり、唇を切ったり、眼鏡が壊れたりはしなかった。同時に近くにあった岩で肩もぶつけた。
当たった衝撃は頭蓋に響き、歯が折れたことが瞬時に分かった。
すぐさま立ち上がり、ぶつけた歯に触れると破片が手に落ちた。
でもそんなにショックは無かった。
それよりも、待っている人の不安が気になり、どうせ自分が苦い気持ちになるはずなのに、前に進もうとしていた。
しかし身体は正直で、何度も、それまでは問題なかったような岩に足を取られた。
流石にペースを落とさざるを得ず、慎重に歩くようにした。
2年前から全て空回りで、今回は歯を無くすという結果をもたらした。
この歯は治るだろうけど、このとき感じた寂しさや悲しさや放って置かれる感じは残るんだろうなと思った。